通販未払い年200億円?「頼み逃げ」許さない
通信販売であれこれ注文し、最初から代金を支払う気がない人たちがいる。年間約200億円とも推計される通販の未払い。中小の業者が「意図的未払い者」対策に乗り出している。
「友人の代理」理由は語らず
都内の住宅街にある古いアパートを訪ねると、50代の男性が出てきた。ある通販業者にお茶を注文し、支払っていないという。注文名義は女性。「友達の代わりに注文して受け取っている」と言うが、別人の名前で注文する理由を聞くと口ごもった。
取材中も宅配業者がまた別の女性宛ての冷凍の荷物を持ってきた。男性は中身が分からず「これは何だったかなぁ。食べ物だったかなぁ」。最初から払う気がないのではと問うと「それはない。つい忘れてしまうだけ」と笑った。
こうした未払い者の情報を共有するNPOがある。「通販未払い防止ネットワーク」(東京都)。2009年以降、手紙や電話での複数回の催促に応じない「意図的未払い者」の住所や氏名の情報を、加盟する中小通販業者約80社から収集。加盟業者だけが検索できるデータベース(DB)に登録している。
アパートの男性から注文を受けた業者がこのDBで調べると、昨年8月までの2年5カ月に同じ住所から通販5社に食品など17件、計13万4千円の注文があり今も全額未払いだった。
NPOは登録情報が5千人以下なので、組織としては個人情報保護法の適用外だが、加盟時には独自の審査があり、加盟業者は自社のホームページにNPOへ情報提供することを明記したり、本人に伝えたりした上で情報を登録する。
後払い注文を複数社に分散
代表理事によると、未払いは、商品到着後に客が振り込む「後払い」で起きる。未払い者は1万円程度の注文を複数業者に分散する傾向があり、1社では多くても3、4件といい、業者は泣き寝入りする場合が多い。「中小業者は少ない未払いでも利益が吹き飛ぶ。対応に気をつかって気持ちもすり減る」
日本通信販売協会の調査によると、加盟約500社のうち181社が、回収の可能性がないと会計上処理した未払いは売り上げの0・37%(2012年度)。同協会の推計によると国内の通販の市場規模は5・5兆円(同年度)のため、単純計算で年間203億円の未払いがあることになる。
同協会の八代修一・消費者相談室長によると、悪質な未払い者とそれ以外を分けるのは難しく、NPOのように、未払い者情報のDB化については「見極める基準もなく、流出などのリスクが高い」と慎重だ。
一方、消費者金融やクレジットカードなどは「信用情報」として、多重債務者らの情報が延べ数億件単位で共有されている。企業は金を貸したり分割払いで商品を売ったりする時、顧客情報を指定信用情報機関に登録。過去の情報によって契約を拒否することもある。
言いがかりで支払い拒否も
袴田さんによると、最近は問題のない商品に言いがかりをつけるなどして代金を支払わない客も目立つという。「個人情報保護が唱えられる社会の隙間で、悪質な未払い者への対応に苦労する中小通販業者が多い。情報共有で対処する力になれば」(小寺陽一郎)